SOTARO KITATOKO 北床 宗太郎
エレキバイオリンの可能性を拓く
新型コロナウイルスの影響が深刻化する中で、日本のジャズバイオリニスト、北床宗太郎がその重苦しい雰囲気を打破するような挑戦を続けている。彼は、自分の部屋で、エレキバイオリンを操り、たった独りでバンドのように豊かなサウンドを創造していく。2020年に相次いでリリースした彼の2枚のアルバムは、コロナウイルスで苦しむ人々に、国境を超えて活力を与えている。= Shot by K. Aoi
コロナ禍で孤高の創作
ーー宗太郎は2020年、『Jazz Violin From Tiny Room』と『Electric Violin Looping』という2枚のアルバムをリリースしている。これらのアルバムに収録された曲はすべて、彼の”Tiny Room”で、彼独りで制作されたものだ。
僕はライブ演奏を中心に活動するミュージシャンです。ところが2020年3月以降、新型コロナウイルスの影響で演奏する機会がほとんど失われました。2カ月、3カ月先に予定されていた大きなコンサートも相次いで中止になっていきました。
今までのような音楽活動はもうできなくなる。だから、僕は自分の家で新しい挑戦を始めたのです。自分のモチベーションを保つためにも、とにかく毎日新しいことをひとつずつやってみるように努力しました。
僕は作曲し、さらに演奏から録音、配信まで行い、6月にはアルバム『Jazz Violin From Tiny Room』をリリースしました。続いて8月に、僕は『Electric Violin Looping』を出したわけです。
ループパフォーマンスという魔術
ーー宗太郎は、エレキバイオリンによるループパフォーマンスをひたむきに進化させている。バイオリンの音をリアルタイムで録音し、次にそれをループ再生しながら、新しい音を重ねていく。コロナ渦での最初のアルバム『Jazz Violin From Tiny Room』では、ドラムやベースなどのデジタル音源を部分的に使った。次に、『Electric Violin Looping』では、宗太郎はすべて完全に自身のループパフォーマンスで作り上げた。
僕がエレキバイオリンを使ったループパフォーマンスを始めたのは5年ほど前。ミュージシャンは別の奏者たちと演奏することを楽しむわけですが、それと同じように、僕は、自分の中の別の奏者たちと演奏を始めたわけです。それは僕にとっては自然なことでした。ただ、配信まですべて独りでやったのは2020年が初めてでした。
僕は作曲するときに、社会情勢を題材にすることは今まであまりなかったです。けれども2020年にはまったく逆でしたね。僕は、コロナ禍の厳しい状況を乗り越えていこうというメッセージ性をもった曲をたくさん作りました。
なかなか前向きになれない憂鬱な気持ちも、僕はブルースで表現しました。世の中は確実に変わってしまった。そういう時代に生きた証をつくるためにも、僕はそうした作曲に力を入れ、これらのアルバムを作っていきました。
Shot by K. Aoi
Directed by Ryuichi Tanoue
ジャズバイオリンの魅力
ーーバイオリンといえば、たいていの人はクラシック音楽の世界を思い浮かべることだろう。宗太郎のようなジャズバイオリニストは世界的にもまだ少ない。彼は、ジャズバイオリンの最大の魅力は、アドリブ演奏にあると語る。
やっぱり、譜面に書かれていることをそのまま演奏するのではなく、アドリブ演奏できるところがジャズバイオリンの魅力的なところだと思いますね。同じメロディーであっても、その時、その場所、自分の体調、一緒に演奏しているミュージシャンのアプローチによって、弾き方は変わってきます。
例えば、自然から影響を受けて秋のイメージで弾いてみることもできます。ジャズバイオリンのそういうクリエイティブなところが僕は好きですね。
僕は、ふだん、いわゆるピアノトリオとモダンジャズの演奏をライブでやっています。それから弦楽器編成のジプシージャズと呼ばれるジャンルの活動もしています。
ファンキーなバンドなどでエレキバイオリンを弾いたりもしています。それから、ダンスなどの即興性のあるジャンルとのクロスオーバーもしています。これからも、クリエイティブな人たちとより多くかかわりあう機会があればいいなと思っています。
世界の人々に音楽を届けたい
ーー音楽に国境はない。宗太郎が手がけているYouTubeのチャンネルは多くの国で視聴されている。そして、世界中の人々が一様にコロナ禍で苦しむ今、宗太郎の目は広く世界へと向いている。
YouTubeの僕のチャンネルは、世界中の方々にご覧いただいています。本当にいろんな国の人とのつながりを僕は実感しています。
2020年の春ごろ、YouTubeで僕の新規アップロードが途絶えていたときがありました。それはアルバムを制作していたからなのですが、アイルランドの方から、僕のことを心配して励ますメッセージをいただきました。それは自分にとっては、とても大きなモチベーションになりましたね。
おそらく世界中でまだ大変な思いをされている方が多いのだと思います。もし僕が演奏する曲を聞いて、だれかが癒しの時間を過ごすことができたらと思いますね。そう願いながら、これからも音楽活動を続けていきたいと思っています。
きたとこ・そうたろう 1980年、三重県生まれ。2005年、横浜ジャズプロムナードで「ベストプレイヤー賞」「ジャズクラブ賞」「横浜市民賞」を受賞。2013年にピアノトリオとのファーストアルバム『Night & Day』を、2017年にジプシージャズをとり上げたセカンドアルバム『C’est si bon』をリリース。2020年には『Jazz Violin From Tiny Room』と『Electric Violin Looping』を配信限定でリリース。YouTubeでも動画配信を続けている。